中東と石油のニュース

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチし、その影響を探ります。

SF小説:「ナクバの東」(50)

(英語版)

(アラビア語版)

Part II:「エスニック・クレンザー(民族浄化)

 

50. 長女アナット(2)

 

 今の夫も父親が選んだ男だ。彼は父の部下の中でも抜きん出た優秀なパイロットであり、アナットが年ごろの頃から家に出入りしていた。父親が彼を気に入っていたのはパイロットとしての技量や判断力だったことは間違いないが、もう一つは彼が自分と同じアシュケナジムだったからでもある。

 

『シャイ・ロック』は頑ななまでの血統主義者であった。彼はユダヤ人そのものが人類の選ばれた民であることに揺るぎない確信を抱いており、中でもアシュケナジムこそ「ユダヤ人の中のユダヤ人」だと信じて疑わなかった。彼にとってはスペインからやってきたセファルディム達は一段下であり、イスラム圏出身のミズラフィムは二級市民に過ぎない。1990年代にロシアからやってきたユダヤ人と称する新移民などは、血統主義者の彼から見ればどこの馬の骨か知れない人種である。

 

『シャイ・ロック』達の正統派アシュケナジムは彼らロシア移民たちを『マフィア』と呼んだ。それは得体の知れない者達に対する蔑称であると同時に、彼らの結束力の堅さはアシュケナジム以上のものがあり、そのことに不気味さを覚えたためでもあった。

 

それでも正統派アシュケナジムはアラブ人と同じ肌の色のセファルディムよりも肌の白い『マフィア』達に親近感を覚えるのであった。単純に言えば『シャイ・ロック』にとってユダヤ人の優劣はアシュケナジムーマフィア(ロシア新移民)-セファルディムと言うことになる。ここではパレスチナ人のような純粋のアラブ人など問題外である。彼はアシュケナジムの血統を守ることがイスラエルの将来のために絶対に必要だと信じていた。だから彼は自分の目をかけた青年パイロットを早くから娘の結婚相手と見込んでいた。

 

年頃になったアナットもこの優秀なパイロットに好意を抱いていた。彼女は友人に対して自分は彼に恋をしている、と打ち明けたが、本当のところは打算であり、父親コンプレックスの裏返しであることに彼女自身気付いていなかった。将来を嘱望された士官の妻になれば少なくとも軍隊と言う狭い社会の中にいる限り極めて居心地の良い一生を過ごすことができることは現在の両親を見ていればよく解った。努力や勤勉などと言うものに余り重きを置かないアナットにとって自分の夢を実現する近道は優秀な伴侶を見つけることであった。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html